涼香の意識が、ふっと戻る。鼻をくすぐる消毒液の匂い。彼女はソファに座っている。目の前に、白衣をまとった派手なメイクの女性がニヤリと笑う。「お目覚め? ここはスーパーカウンセリングルームよ。私はスーパーカウンセラー、よろしくね!」
涼香は眉をひそめる。「…スーパーって何?」 頭がぼんやりする。ついさっき--あの番組の記憶が、頭を締め付ける。電マの振動、身体に残る妙な熱。
ふと、涼香は下着の違和感に気づく。パンツがぐちゃぐちゃに濡れている。あの番組の電マのせいだ。彼女は衝動的に立ち上がり、カウンセリングルームの隅でパンツを脱ぎ捨てる。こんな場所でこんなことをするなんて、自分でも信じられない。
「…話すこと、ないよ」と、彼女は呟く。
スーパーカウンセラーは時計をチラリと見て、涼香をドアへ促す。「時間よ! 次の仕事が待ってるでしょ? スーパーカウンセリングはいつでも開いてるから、またおいで!」

涼香は雑居ビルの薄暗い階段を降り、表に停まる黒い車に乗り込む。小さなバッグを握りしめ、助手席に沈む。後部座席の田中が、いつもの軽い調子で声をかける。「よお、涼香! どうだった? スーパーカウンセリング(笑)」 運転手が黙ってハンドルを握る中、涼香は窓に額を押し付ける。「…別に。」 スーパーカウンセリングで何を話したのか、覚えていない。胸の奥に、熱い何かが燻っている。CM女王はもう無理なのか?でも、彩乃には負けたくない。
突然、涼香は身体の異変に気づく。車の振動が、なぜか乳首に響く。ブラの布が擦れるたび、異常に敏感だ。いつもはこんなことなかったのに。あの番組のせいか? 思わず小さな声が漏れる。
「んっ…」

慌てて手で胸を押さえる。彼女はバッグで隠しながら、こっそりブラのホックを外す。こんな自分、恥ずかしい。でも、身体が反応する。
田中が怪訝な顔で振り返る。
「おい、どうした?」
「…なんでもないです。」
涼香は顔をそむける。もう一度、振動で小さな喘ぎ声が漏れる。
「っ…」
頬が熱い。ブラにミントでも塗られているのか。
田中はニヤリと笑い、話を続ける。「しかしよ、あの番組、酷かったな。電マなんてやりすぎだろ。制作会社に厳重注意しといたからよ。大丈夫、画面には映ってねえから。誰かに聞かれても、とぼけておけ。お前の商品イメージのためだぞ。」
涼香は田中をチラリと見る。注意した? 本当に? あの番組、田中のアイデアでしょ? 彼の軽い口調に、裏がある気がする。だが、口に出す気力はない。
田中は涼香の沈黙を無視し、声を弾ませる。「まあいいや! 涼香、休んでる暇はねえぞ。今度の仕事、でかいんだ! 今、全国で米騒動が起きてんだよ。知ってるだろ? 米が買えねえ、値段はバカ高い、国民がブチ切れてる大問題だ! で、涼香、お前は米の本拠地でドキュメンタリーの聞き役の仕事が入った! 全国放送だぞ! 涼香、お前がこの国を救え!」
「救うって…私、ただの聞き役でしょ?」 涼香はため息をつく。米騒動。SNSで「既得権益で値段吊り上げるな馬鹿野郎」「5キロ4000円超え、ふざけんな」って投稿を見た。確かに深刻だ。……
田中は目を輝かせる。「ただの聞き役じゃねえよ! お前の注目度、半端ねえだろ? あの番組の後、涼香が何してるかって、みんな気になってんだ! その熱をドキュメンタリーに全振りする! だからよ、今はお前、SNSで何も発信すんな。書き込み禁止、完全シャットアウトだ。次の仕事でバーンと行くぞ!」
涼香は小さく頷く。確かに、番組後のSNSは騒がしい。「涼香、電マの後どうなった?」「涼香、大丈夫か? 心配だよ」「和解金9000万いけるんじゃね?」「米ドキュメンタリー、マジ涼香? 応援するわ!」 彼女からの返信は禁止。田中の戦略らしい。彼女の商品イメージを、ドキュメンタリーでどう作り直す気なのか、わからない。
車はロケバスに到着。涼香は小さなバッグを握り、ロケバスに乗り換える。窓の外、都会のビルが遠ざかり、田んぼの緑がちらりと見える。農地への長旅だ。涼香はシートに沈み、呟く。「もう当分、部屋に帰ってないな。」 名古屋、万博、東京へトンボ帰りの日々。自分の部屋のベッドが恋しい。ふと、家族の顔が頭をよぎる。実家の田んぼ、父の背中。あの頃、誰も彼女の股間をブラックホールなんて呼ばなかった。視聴者の熱狂、SNSのざわめき。あの番組で、彼女の身体は物理的な現実に晒された。でも、家族は今、米騒動の真っ只中で何を思うんだろう。
ロケバスのテレビモニターがニュースを流す。「令和の米騒動、価格高騰止まらず! 5キロ5233円、庶民の悲鳴!」「政府、備蓄米放出も効果なし」「米国産輸入米が注目、しかし関税の壁…」 涼香は耳を傾ける。米の本拠地で、どんな声が聞けるんだろう。彼女の役目は、ただ聞くこと。でも、胸の奥の熱が、さっきより強くなっている。彩乃には負けたくない。あいつ、最近おいしい仕事ばっかりだ。涼香はSNSで見た彩乃の新広告を思い出す。完璧な笑顔、完璧な商品イメージ。自分の乳首がまだ疼くのを感じながら、涼香は唇を噛む。あの番組のせいだ。いや、違う。自分次第だ。今の目標が、彼女を突き動かす。
バスは高速を走る。涼香はスマホを開き、SNSをスクロールする。「涼香、電マの後どうなった?」「涼香、大丈夫か? 心配だよ」「米ドキュメンタリー、涼香ならバズる!」 ブラックホール仮説の投稿も目に入るが、複雑な心境でスルーする。代わりに、「涼香、大丈夫か?」という投稿に、心の中で小さく頷く。心配してくれる人がいる。それだけで、ちょっとだけ胸が軽くなる。でも、書き込むことはできない。彼女はスマホを閉じる。
「私が現場で真相を聞き、全国へ届ける。そして私が…」
私がこの国を…救う!!

国民激怒の米騒動、その渦中に涼香が突入する!
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