
ギガは田中の冷たい対応に一瞬怒ったようだが、おもむろに水着を着直す。
帰る準備かと田中がほっとした最中

突然「BUZZ ME」と大きく書かれたボードを手に持ち、カメラに向かって堂々と英語で主張し始めた。
「Hey everyone, follow me on Instagram! I’m the hottest influencer from LA!」
(みんな、インスタで私をフォローしてね!私はロスから来た最高にホットなインフルエンサーだよ!)
と叫び、続けて
「Check my latest posts, like and share, please!」
(最新の投稿をチェックして、いいねとシェアしてね!)
自分のSNSアカウント名を連呼し、ポーズを決めてウインクまでしてみせた。
スタジオが騒然とする中、彼女の真意が明らかになった。
実はギガはオーディション合格などは目的ではなく、日本旅行のついでに売名を狙って参加した
便乗型インフルエンサーだったのだ。
配信コメントが「売名か!」「運営ざまあw」とさらに盛り上がり、海外視聴者も反応した。

帰り際に、ギガはカメラに近づき、再び英語で勧誘した。
「I’m heading back to the hotel for an even better live stream! Move to my channel, everyone!」
(これからホテルに帰ってもっとヤバい放送をするよ!皆、私の放送に移動して!)
と叫んだ。その瞬間、配信サイトの視聴者数がみるみる低下し、次々とギガのサイトへ視聴者が移動。
スタッフが慌ててモニターを確認した。田中は顔を真っ赤にし、激しい怒りで拳を震わせた。
「何!?この女は俺のオーディションを利用したのか!?」
と怒鳴り、子分に鋭い視線を投げつける。
「お前!こんな奴を連れてくるなんて、頭沸いてんのか、この無能が!?」
子分は慌てて頭を下げ、
「す、すみませんでした!英語が…!」
と弁解したが、田中は机を叩き、持っていたペットボトルを壁に投げつけた。
「アホ!ちゃんとチェックしろ、クソが!」
ギガはニヤリと笑い、満足気にスタジオを後にした。

次郎がカメラに向かって視聴者へ土下座しながら叫ぶ
「皆さんすいませんでした!どうか、どうかチャンネル登録はそのままで!次回のオーディションは日本人ですから!かわいい子ですから!どうか引き続き、チャンネル登録はそのままでお願いします!この度はすいませんでした!」
—————–
涼香は監禁病棟の薄暗い部屋で疲れを癒していた。
小さな窓から差し込む夜の光が、彼女の決意に満ちた瞳を静かに照らす。
監禁の壁を打ち破る何かが必要だと感じていた。
近くに立つ監護士を見上げ、彼女は少し躊躇いながら口を開いた。
「ねえ、監護士……体、なまってきたんだけど。ジムある?」
声は控えめだったが、内に秘めた闘志が滲んでいた。
監護士は少し目を細め、彼女をじっと見つめた後、ぽつりと呟いた。
「トレーニングルームがあるぞ。」
その無表情な声に、涼香の心がわずかに高鳴った。
「グローブと……サンドバッグ、ある?」
とさらに尋ねると、
監護士は短く頷き、
「あるぞ」と答えた。
それだけ聞くと、涼香は静かに頷き、決意を固めた。
――身体を取り戻すこと。
それは、誰かの視線に応えるためでも、広告の笑顔を売るためでもない。
自分自身を取り戻すためだった。
薄暗い通路を抜け、消毒薬の匂いが漂う小さな部屋にたどり着いた。
そこにはサンドバッグが天井から吊るされ、静かに揺れていた。
彼女はグローブを手に取り、きつく締め上げ、拳に力を込めた。
右足を後ろに引き、肩を沈め、呼吸を整える。
監禁の重圧から解放される瞬間を想像しながら、彼女はサンドバッグに拳を叩き込んだ。

バスッ。
重く揺れるバッグに、手が痺れるほどの衝撃が返ってきた。
痛みはあったが、それが妙に心地よかった。
バスッ、バスッ。
連打のたびに心臓が激しく脈打つ。
彼女の心は叫んでいた。
「絶対ここから脱出してやる。」
「脱出後も体力、技力は大事!」


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