田中は前回のギガの売名騒動で受けた恥辱を胸に刻んでいた。
スタジオの片隅で、ノートパソコンを睨みながら、子分に鋭い指示を飛ばす。
「次回のオーディションは絶対に失敗させねえ!」
子分は汗だくで頷き、SNSの管理画面を必死に操作。田中の息のかかったタレントたちが、早速動き始めていた。
アイドルの彩乃は、自身のインスタグラムでキラキラした笑顔と共に投稿。
「新人オーディション開催!新たな推しが見つかるかも!?デビュー前の姿をチェックしよう! #新人オーディション #推し活」
投稿には、彼女のファンたちが「絶対見る!」「彩乃ちゃんの推しは間違いない!」とコメントで盛り上がり、リツイート。
一方、バラエティ番組の司会者ケンちゃんは、Xで軽快な口調で煽る。
「新人オーディション開催!これは、ハプニングの予感!みんな、見逃すなよ! #オーディション #期待大」 フォロワーたちが「ケンちゃんの言うなら見なきゃ!」
「またカオス回キター!」と反応し、投稿が増え始める。
田中はモニターをチェックしながらニヤリと笑う。「ふん、俺のステマの力、舐めんなよ!」
子分が「視聴者数、ちょっとずつ戻ってきてます!」と報告。
オーディション当日開催当日、ステマの効果か、配信サイトの視聴者数は前回の急落から少し回復。
コメント欄も「今回は期待!」「日本人なら安心だな!」「可愛い子キボンヌ!」と賑わっている。
「応募者を呼んでこい」と田中が低い声で指示を出す。
子分は慌てて頷き、控室へと走った。数分後、ドアが開き、新しい応募者が姿を現した。

白いビキニに包まれた華奢な身体、やせ型のシルエットがスポットライトに映える。
黒髪が肩まで伸び、大きく主張的な目がスタジオの視線を引きつけた。
彼女は緊張と期待が入り混じった表情で、中央に立った。
子分がマイクを手に、いつもの事務的な口調で尋ねた。
「名前は?」
「楓花です」
と彼女は少し震える声で答えた。

大きな目がキラリと光り、どこか挑戦的な雰囲気を漂わせていた。
子分は一瞥し、目を細めて続けた。
「ポーズをとって」
シンプルな指示に、楓花は一瞬立ち止まったが、すぐに身体を動かす。
モデル風に体をひねり、白いビキニがライトを柔らかく反射。
彼女の華奢なラインが際立ち、スタジオのスタッフが小さく息を呑む。
控えめな拍手が漏れ、子分が手を叩いて
「いいねいいね!」と明るく褒める。
楓花の顔にほっとした笑みが広がり、緊張が少し解けたようだった。
配信サイトのコメント欄が動き始める。
「可愛い!」「次は何?」「この子推せる!」
と軽い盛り上がり。
海外視聴者からも
「White bikini is fire!」「Show us more!」と反応が飛び交う。
田中はモニターを眺め、満足げに頷く。
「素材としては悪くねえな」
と呟き、子分に耳打ち。
「涼香の穴を埋めるには、もっと視聴者を引きつける必要がある。もう少し…恥ずかしくさせてみろ。」
利益を追求する彼の目には、楓花の初々しさが新たな収益源として映っていた。

子分は興奮気味に
「了解!テンション上げていきます!」
と応じ、マイクを握り直す。
「よし、楓花!もっとセクシーにいってみよう!スタッフ、フォロー頼む!」
スタッフがステージに近づき、楓花にポーズの指示を出す。
彼女は一瞬戸惑うが、プロ根性で笑顔を保ち、カメラに向かってさらに大胆なポーズを試みる。

だが、スタッフの一人が彼女の水着の紐に手をかけ、軽く引っ張る。
楓花の目が一瞬大きく見開かれ、頬が赤らむ。
コメント欄は一気に加速。「これはヤバいw」「楓花がんばれ!」「運営、節操なさすぎ!」
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監禁病棟のトレーニングルームで、涼香は今日もボクシングに励む。
バスッ。
「私は今、田中や広告やプロパガンダに操られて動いているわけではない。
私は今、自分の意志で、自分のパンチを繰り出して鍛えている!」

打つたびに、自分を少しずつ取り戻すような感覚があった。
あのときは誰かの言葉をしゃべっていた。
あの笑顔は、売られるための笑顔だった。
でも、今だけは違う。
これは私の汗。私の息。私の闘い。
サンドバッグの向こうに、虚像の田中が立っているような気がして、涼香はもう一発、力いっぱい打ち込んだ。


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