【涼香】55.グエンズ

小説

オーディション当日、配信の始まったスタジオは不穏な空気に包まれていた。

先日の楓花のオーディション炎上で

応募者が全員無断キャンセル。田中は机を叩いて怒鳴る。

「くそ! あの騒動のせいでビビって逃げやがったな!」

視聴者数はまだ高いが、コメント欄は非難の嵐だ。

「運営のせいだろ!ざまあねえわ!」

「無人オーディションw」

「こんなオーディション、誰も来ねえよ!」

海外からも

「Boycott their scam!」 (連中の詐欺オーディション、ボイコットしろ!)

次郎が慌てて駆け込み、息を切らして報告する。

「田中さん!今、 飛び込みで参加者が1人来ました!」

田中の目に狡猾な光が宿る。

「ほう…? どんな奴だ? まあいい、すぐ連れてこい! 配信止めるわけにはいかねえ!」

スタジオが急遽整えられ、カメラが回り始める。

コメント欄がざわつく。

「飛び込み!? 誰だよ!」

「Who’s crazy enough for this?」 (このカオスに来るなんて、どんだけ無謀なんだ?)。

スタジオの下に一人の女性が立つ。

ショートカットの髪、強い眼差し、シンプルでカジュアルな服装。

彼女は偽名で名乗る。

「私は…マユです。よろしくお願いします。」

万由、潜入捜査中の女警官だ。

彼女の心臓はバクバクと鳴るが、顔には冷静さを保つ。

「…この場に手がかりがあるはず。」

彼女は田中の怪しげな視線を正面から受け止め、内心で呟く。

「絶対に、あいつの仮面を剥がす。」

次郎がマイクを握り、進行を進める。

「では、マユさん、説明した通り、持参の水着に着替えてきてください!」

万由は頷き、控室へ向かう。

彼女は用意していた紺色の水着に着替える。

露出は控えめで、スポーティなデザイン。

警察での訓練で鍛えた身体が、シンプルな水着に包まれる。

控室の鏡で自分を見つめ、深呼吸。

「正義のため…ここで怯むわけにはいかない。」

ステージに戻ったマユの姿に、コメント欄が反応。

「お、シンプルな水着!」

「これ、オーディションだろ? 地味じゃね?」

「That’s a modest bikini for THIS show!」 (このショーにしては地味なビキニだな!)。

次郎は内心で思う。

「うわ、色気ねえ水着だな…田中さん、絶対キレるぞ。」

だが、気を取り直して続ける。

「よし、マユさん、ちょっとダンスかポーズか、やってみて!」

万由は一瞬考える。

「ダンスは…訓練では練習したことがない。」

彼女は警察での基本動作を思い出し、キビキビと回れ右を披露。

両足を揃え、背筋を伸ばし、向きを変える。

スタジオに微妙な沈黙が流れる。

コメント欄がざわつく。

「え、なんだそれw」

「カッコいいけど、タレントっぽくねえ!」

「Is she a soldier or what?」 (彼女、軍人かよ?)。

田中は椅子から身を乗り出し、不満を爆発させる。

「なんだそれ、軍隊かよ!? こんな硬い動きで視聴者数稼げると思ってんのか!」

彼の声に、スタッフがビクッと縮こまる。次郎が慌ててフォローする。

「えっと、マユさん、他にも何かやってみて!」

万由は冷静に、しかし内心で警戒しながら、次の動作に移る。

彼女は胸を張り、警察式の敬礼をピシッと決める。

右手を額に当て、鋭い目でカメラを睨む。

次郎は困惑顔で呟く。

「え…タレントになりたいんだよね…?」

コメント欄はさらにカオスに。

「マジで軍人みたいw」

「でも、なんかカッコいい!」

「これ、オーディションだろ!?」

「She’s like a cop, not a model!」 (モデルじゃなくて警官みたいだ!)

「What’s with the salute?!」 (その敬礼、なんなんだ!?)

田中は苛立ちを隠さず、唾を飛ばして叫ぶ。

「ふざけんな! 今日はタレントオーディションだぞ! もっと色気出せ!」

次郎は慌てる

「ど、どうしよう…」

彼女は敬礼を続けている。内に秘めた正義感が滲む。

内心では、涼香の失踪の手がかりを探るため、田中の本性を暴くチャンスを伺う。

田中はニヤリと笑い、スタッフに号令をかける。

「君は動きが硬すぎる! 派遣労働移民のグエンズ、手伝ってやれ!」

ステージの脇から、男たちが現れる。

グエンズと呼ばれる外国人スタッフだ。

冷たい目でマユを見つめる。

コメント欄が一気に過熱。

「グエンズって誰!?」

「やばい、雰囲気変わった!」

「マユ、危なくね!?」

「Who are these thugs?」 (このゴロツキどもは誰だ?)

万由は敬礼の姿勢を崩さず、グエンズの接近に備える。

彼女の目は鋭く光り、内心で呟く。

「涼香さんの手がかり…ここで掴む。どんな手を使っても、絶対に暴いてやる!」

———————–

一方の涼香は監禁病棟でトレーニング後、入浴中であった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました