【涼香】58.恥辱の温泉リポート 群馬編① ステップアップを求めて

小説

日本政府はアベノミクス以降、日本円の価値を破壊する異次元金融緩和を長期間続けた結果、

中央銀行がまともな金融政策を行うことが不能な状況に陥り、毒が回り

打開策すら何も無く八方塞がりとなっている。

そして日本の街は、円安の波に乗って外国人観光客で溢れた。

ネオン輝く繁華街には、英語や中国語が飛び交い、

温泉地もインバウンド需要で活況を呈している。

そんな中、田中は新たな金脈を見据えていた。

先日のオーディションの炎上で、

応募者が壊滅的に減ったことに苛立つ彼は、

モニターを睨みながら子分に吐き捨てる。

「あのSNSのバカどものせいで、オーディションは誰も応募がねえ! だが、インバウンドの外人どもは日本の温泉に目がねえ。そこを狙うぜ。」

田中は狡猾な策略を思いつく。

オーディションの悪評を払拭するため、

「温泉リポート」と銘打った新企画を立ち上げ、

オーディションとは無関係の健全な仕事と偽装して募集をかける。

しかも、2か所の温泉地で時間を近づけて同時開催することで、

情報を遮断して出場者の逃げ出しを防ぐ算段だ。

募集広告は、こう謳う。

「温泉リポーター募集! 日本が誇る温泉文化を世界に発信! 即採用のチャンスあり!」

一方、東京のカフェでは、明里あかりが一人、紅茶のカップを手に窓の外を眺めていた。

彼女はキー局の女子アナ試験で、熾烈な倍率に敗れ、夢の第一歩を踏み出せずにいた。

テーブルの上には、ケーキと冷めかけた紅茶。

彼女はスマホを手に、ため息をつく。

「女子アナ…やっぱり無理だったのかな…。」

だが、彼女の目はまだ諦めていない。

紅茶を一口飲み、ほのかな甘さに気持ちを奮い立たせる。

「まだ終わらない。私の声で、世の中に貢献していきたい。」

その時、スマホの画面に飛び込んできたのが、

温泉リポーターの募集広告だった。

「温泉リポート? 即採用あり…!?」 明里の心臓がドクンと鳴る。

彼女は唇を噛む。

「キー局はダメだったけど、こうやって可能性のあるステップから夢に近づくしかないよね。」

彼女はケーキの最後の一口を頬張り、紅茶を飲み干す。

「よし、やってみる!」

応募フォームに指を走らせ、明里はカフェを出る。

一度は諦めかけた夢のために、彼女の足取りは力強さを帯びていた。

田中は画面を眺め、ニヤリと笑う。

「外人観光客向けに温泉と女を絡めりゃ、視聴者数は爆上がりだ。」

明里は駅に向かいながら、スマホで募集の詳細を読み込む。

「温泉リポート…やっぱりバスタオル一枚でリポートするのかな…」

彼女の心に、恥ずかしさと決意がせめぎ合う。

「でも、女子アナになるためなら、どんな舞台でも輝いてみせる!」

彼女の目は、紅茶の温もりを宿したように、静かに燃えていた。

一方、田中の子分が報告する。

「応募、ポツポツ来てます! 即採用ってのが効いたみたいです!」

田中は満足げに頷く。

「よし、2か所同時開催で逃げ場を塞ぐ。次はどんな女が恥ずかしくなるのかな?ケケケケ!」

コメント

タイトルとURLをコピーしました