明里はゆっくりと立ち上がり、腕を下ろし、裸体を再びカメラに晒す。

彼女の心は羞恥で埋め尽くされる。
湯けむりの中、彼女の肌が光を反射し、胸と自然な陰毛が映る。
たかしはニヤリと笑い、履歴書をチラリと見る。
「へえ、明里、履歴書だと水泳やってたんだってな? 温泉に飛び込んでくれよ!」
明里は驚いて話す。
「それは…小学生の頃の話ですし、温泉に飛び込むなんて…!」
彼女の声は震え、羞恥と困惑で揺れる。
たかしは畳みかける。
「ここはインバウンドレジャー温泉だから、飛び込みOKなんだよ! これ、広告案件なんだから、しっかりやってくれ!放送の道、わかってんだろ?」
明里の心に、キー局の不採用通知が再びよぎる。
「広告案件…テレビの道…。」
彼女はこの状況や威圧感・空気感により思考がぼやけてきている。
エステで使い果たした貯金、女子アナへの夢を思い出す。
彼女は深呼吸し、裸のまま温泉の前に立つ。
彼女は一歩踏み出し、温泉に飛び込む。

バシャッ!
水しぶきが上がり、彼女の裸体が湯に沈む瞬間、カメラがその姿を捉える。
たかしは笑う。
「よし、明里、これはいいぞ! ぎゃはは!」
そして、続けてたかしのニヤけた声が響く。
「よし明里! もう1回飛び込んでみようぜ!」
明里は湯の中で息を整え、目を丸くする。
「え…?」
たかしはカメラの後ろで手を叩き、畳みかける。
「お前の人生、採用がかかってんだよ! これはチャンスだぞ!」
明里の心は思考停止寸前だった。
「こんなものが…チャンスなの…?」
だが、今さら決断をひっくり返しても、貯金ゼロの彼女には後戻りできない。
湯舟から這うように上がり、震える足で縁に立つ。
たかしがさらに要求をエスカレートさせる。
「次はもっと高くジャンプして!」
バシャッ!

「次はさらに水しぶきを出すように!」
バシャッシャッ!

彼の声は、まるで彼女を追い詰める鞭のようだ。
明里は言われるがまま、湯舟に何度も飛び込んだ。
「次は回転!」
シュッツバシャッ!

「次は後ろ向きに派手に飛び込んで!」
バシャーーーッ!

水しぶきが上がり、彼女の裸体が繰り返しカメラに晒される。
たかしは満足げに叫ぶ。「いいぞ、明里! 飛び込む度にどんどん人気出るよ!」
だが、明里の目は次第にうつろになり、最初の明るいリポーターの輝きは消えていた。
人気が出るどころか、飛び込む度に人生が崩壊していく感覚に苛まれた。
心身ともに疲れ果て、彼女の呼吸は荒く、肩が震える。
「もう…限界…。」
明里は湯舟の中、うつろな目で疲労困憊。
「じゃあ、湯舟の中から温泉リポートよろしく!」
たかしの声が冷たく響く。
明里は湯に浸かり、放心状態。
彼女の声は、最初の紅茶のような温もりを失い、機械的だ。

「この温泉は…硫黄泉で、肌に…良い効果が…。」
彼女の目は虚ろで、台本通りの泉質説明を棒読みする。
「そろそろ…終わりにしてください…。」

彼女の声は、ほとんど懇願に近い。
湯けむりが彼女の疲弊した表情を隠すが、カメラは容赦なく彼女を捉える。
スタッフがニヤニヤと笑い、たかしは腕を組んで満足げだ。
「まだだ明里! インバウンド客が喜ぶぞ!」
その時、突然湯けむりの向こうから、屈強な男性客が明里に近づく。

「おい姉ちゃん、男湯に裸で来るとは大胆だな。ぐへへへ!」
彼は下品に笑い、明里ににじり寄る。
「混浴しにきたのか? 楽しもうぜ、ぐへへへ!」
明里の顔が恐怖で青ざめる。
「いや、違います…やめてください…」
彼女は後ずさり、裸の身体を腕で隠そうとするが、湯の縁で腰が抜け、恐怖で逃げ出せない。
「こんなところに来ておいて何言ってんだよ。物好きな女だな、ぐへへへ!」
男はさらに踏み出し、明里に近寄る。
「いや、やめて…」



コメント