都内の雑居ビルにある小さなカフェテリア。
派遣社員の莉緒、葉月、千尋は、いつものように同じメニューを注文し、仲良くランチを取る。
3人は同い年の25歳、都内企業の事務職で働く仲間だ。
派遣切りの噂が囁かれる中、単調なデータ入力や上司の理不尽な指示に追われる日々に、
彼女たちは溜息を漏らす。

「また上司が『契約更新は厳しい』とか…」
「給料安すぎて、ほんとキツいよね…。」
だが、3人の心を癒すのは、共通の趣味である温泉巡りだ。
日々の仕事の憂さ晴らし、窮屈な日常から解放されるカタルシスが、
湯けむりの世界に彼女たちを駆り立てる。
「温泉のあの開放感、最高だよね!」
「年に2、3回しか行けないなんて…もっとガッツリ巡りたい!」
3人の目は、湯に浸かる夢を語るたび、キラキラと輝く。
莉緒がスマホをいじりながら、突然声を上げる。
「ねえ、これ見て! 温泉リポーターの募集! 『シン・湯けむりの宿 楓月庵』で、即採用ありだって!」

葉月が身を乗り出す。
「え、マジ!? 温泉タダで行けるの!?あ、しかも温泉ツアーチケットプレゼントまで!」
千尋がスクロールして詳細を読む。
「…って、バスタオル1枚で配信だって。うわ、めっちゃ過激じゃん…。」
3人は顔を見合わせ、沈黙が流れる。
だが、莉緒が笑って言う。
「でもさ、温泉旅行に代えられないよね! 派遣の給料じゃなかなか行けないもん!」
葉月が頷く。
「だよね! 日常から離れて、湯けむりでリセット! チャンスじゃん!」
千尋も意を決する。
「よし、3人で応募しよう! 一緒なら怖くない!」
3人は意気投合し、勢いで応募フォームに指を走らせる。
「温泉、行くぞー!」
栃木県、シン・湯けむりの宿 楓月庵。
田中の子分、次郎が率いる栃木班の撮影現場は、湯けむりとカメラの熱で異様な雰囲気に包まれていた。
田中の策略通り、インバウンド観光客向けの「温泉リポート」と偽装した羞恥な案件が始まる。
SNSでは、群馬班での万由の正義の鉄槌が話題沸騰中だが、
栃木班の撮影は新たな火種を孕む。
群馬班での撮影を終えた万由は、栃木には間に合わず、控室でスマホを手に栃木班の配信をチェックする。
「次郎の動き…涼香さんの失踪と絶対繋がってる。この配信、絶対見逃せない!」
彼女の目は、スマホ画面に映る次郎の不穏な笑みを鋭く捉える。
莉緒、葉月、千尋は、バスタオルを巻いたまま、温泉セットの前に立つ。

3人とも、カメラのレンズを前に緊張で顔が強張る。
莉緒が苦笑いをしながら小声で呟く。
「バスタオルでカメラの前に立つなんて…考えたこともなかった…。」
葉月が頬を赤らめ、同意する。
「ほんと、恥ずかしすぎる…でも、温泉のためだよね?」
千尋が震える声で言う。
「うん、3人一緒なら…なんとか!」
彼女たちの心臓は高鳴り、羞恥と不安が胸を締め付ける。
次郎がハイテンションでマイクを握り、首を左右に振ってはしゃぐ。
「おおっと、3人組! テンション上がってきた! テンション上がってきた!」
彼の声に、スタッフが笑い、カメラが3人をアップで捉える。
次郎はニヤリと笑い、衝撃の提案をぶち上げる。
「じゃあ、君たち3人で野球拳しようか! 負けた人が全裸で温泉リポートね!」

莉緒、葉月、千尋の顔が一瞬で青ざめる。
「ええ!? 裸に!?」
「3人で勝負!?」
3人は目を見合わせ、動揺が波のように広がる。
莉緒が震える声で言う。
「それって…聞いてないし…」
葉月が手を握りしめる。
「…変じゃない!?」
千尋が唇を噛む。
「…。」
次郎はさらに煽る。
「ほらほら、インバウンド客向けの案件だぞ! 温泉リポート、ガッツリ盛り上げてくれよ!」
スタッフが下品に笑い、カメラが3人の動揺を容赦なく捉える。
万由は、群馬の控室でスマホの配信を見ながら、メモを取る。
「次郎のこの提案…ただのゲームじゃない。田中の組織の闇、絶対ここにある!」
彼女の目は、湯けむりの向こう、次郎の不穏な笑みに鋭く光る。
莉緒、葉月、千尋は、バスタオルを握りしめ、互いの顔を見つめる。
「どうしよう…」
「無理でしょ…帰ろうよ」
「温泉のためとはいえ…」
彼女たちの心臓は、恥ずかしさと不安でバクバクと鳴る。


コメント