【涼香】67.栃木編パート4:オレナルド王子

小説

次郎は温泉セットでニヤリと笑い、3人の抱擁を無視して声を上げる。

「おいおい、泣いてる場合じゃねない! 借金にはならねえ、大丈夫! その代わり、1人のお客様が来たから!」

彼の声に、スタッフが下品に笑い、カメラが不穏な動きで新たな人物を捉えようとする。

莉緒が葉月を抱きながら叫ぶ。

「お客様って…何!? もうやめてよ!」

千尋も涙目で訴える。

「葉月はもう十分頑張った! やめさせて!」

だが、葉月は震える手で2人の腕を握り、囁く。

「大丈夫…私が選んだんだから…。」

彼女の目は、涙で濡れながらも、友達への思いでかすかに輝く。

次郎の声が響く。

「お客様は葉月ちゃんと話したいらしいから、他の2人ははけて!」

莉緒と千尋が驚き、葉月を心配そうに見つめる。

「葉月、大丈夫…?」

「1人にしないでよ…!」

だが、次郎が手を振る。

「ほら、早く! インバウンド客向けの特別サービスだ!」

2人は渋々退場し、葉月は湯の縁に1人残される。

不安が胸を締め付け、彼女の心臓がバクバクと鳴る。

「お客様って…何…? また何か恥ずかしいこと…?」

カメラが彼女の動揺をアップで捉え、スタッフの笑い声が湯けむりに響く。

間もなく、湯けむりの向こうから「お客様」が現れる。

全裸の若い金髪の男性、まるで少女漫画から飛び出したようなハンサムボーイだ。

鍛えられた筋肉と輝く青い目が、温泉の光に映える。

彼は堂々と葉月に近づき、金曜ロードショーの日本語吹き替え風の声で話しかける。

「僕の名前はオレナルド。みんなにはプリンスって呼ばれてる。」

葉月の目が丸くなり、動揺で声が震える。

「え!? え!? 王子…!?」

オレナルドは優雅に微笑み、葉月の手を取り、湯の中で跪く。

「葉月、僕は君に惚れてしまったよ。なんて美しい身体なんだ。」

彼の目は真剣で、葉月のふっくらしたウエストや控えめな胸を、愛おしそうに見つめる。

「葉月、僕と結婚してくれ。日本は円安だし、物価高に賃金が追い付いてない。そんな中で、君はこんな過酷なオーディションに立ち向かった。君の強さに心を奪われたよ。」

彼は続ける。

「僕は貴族の出で、僕の国の通貨価値は日本とは逆に上昇中だ。僕こそが君を幸せにできる。結婚しよう。」

葉月の心臓は、今日の羞恥、恐怖、友達との絆で何度も高鳴っていた。

だが、オレナルドのプロポーズに、彼女の胸は新たな鼓動で震える。

「このドキドキ…私の恋心…! これが私の運命なんだ!」

彼女の脳は、一連の試練を乗り越えた先に訪れたこの瞬間を、運命の愛と結びつける。

涙がこぼれ、彼女は頷く。

「はい…!」

彼女の声は、湯けむりに響き、決意と恋心が混ざり合う。

莉緒と千尋は、温泉セットの脇で配信モニターを見て、泣きながら感動する。

「良かった…葉月、こんな目に遭いながらも…!」

「諦めなくて本当に良かった!」

千尋が涙を拭う。

「おめでとう、葉月! おめでとう!」

莉緒も嗚咽を漏らす。

「私たち、借金の心配してたけど…葉月の人生、大逆転だ!」

2人は後ろめたさから解放され、葉月の幸せを心から喜ぶ。

次郎はニヤリと笑い、スタッフに手を振る。

「いいね、いいねー! じゃあ、僕たちは邪魔者だから、あとは2人で楽しんでね! 皆、脱衣所にはけよう!」

スタッフと莉緒、千尋は気を使って退場し、湯けむりの中に葉月とオレナルドだけが残る。

オレナルドは葉月に微笑み、囁く。

「良かった。じゃあ、早速愛し合おう、葉月。」

葉月は頬を赤らめ、恥ずかしさと恋心で目を輝かせる。

「うん…!」

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