
シン・湯けむりの宿 楓月庵の男湯は、湯けむりが漂う静寂の中で、葉月の幸せな吐息が響いていた。
「私、最高に幸せ…オレナルド、あなたの国に連れて行って…。」
彼女の声は、恋の炎に焼かれたように甘く、幸せそうな表情で意識を失う。
彼女の華奢な身体、ふっくらしたウエスト、控えめな胸、自然な陰毛が、湯の熱で火照り、湯けむりに溶け込む。
オレナルドは優しく微笑み、葉月を抱えてそっと床に寝かせる。

彼女の裸体は、温泉の光に輝き、無垢な夢に浸っているようだ。
オレナルドは立ち上がり、スタッフに軽く手を振る。
「バーイ!」

彼の金髪が揺れ、少女漫画の王子のような姿で浴場を後にする。
脱衣所で待機していた莉緒と千尋は、モニター越しにその光景を見て戸惑う。
「あれ…? え…?」
莉緒が目を丸くし、千尋が呟く。
「オレナルドさん…行っちゃった…?」
次郎がニヤニヤと近づき、ハイテンションで言う。
「ああ、彼は俳優さんだよ! よく盛り上げてくれたねー! 海外からの視聴者数、ばっちり増えたぜ!」
莉緒の顔が一瞬で青ざめる。
「え…? 何これ、ヤラセ!?」
千尋も声を震わせる。
「ヤラセじゃん…! 葉月の気持ち、弄んだの!?」
次郎はケラケラと笑い、無神経に返す。
「なーに、無粋なこと言ってんだよw 演出って言うんだよ、演出w これで海外からの視聴者数、また上がったろ!」
莉緒と千尋は言葉を失い、モニターに映る葉月の幸せそうな寝顔を見つめる。
カメラは、温泉の流れる音色とともに、彼女の全裸を容赦なく捉えていた。

葉月はまだ知らない。オレナルドのプロポーズが台本だったこと、
そして2人きりの愛の営みが、生放送で世界中に配信されていたことを…。
莉緒が拳を握り、涙をこらえる。
「葉月…こんなの、ひどすぎる…!」
千尋も嗚咽を漏らす。
「私たちが応募しなきゃ…こんなことにならなかったのに…。」
2人は互いの手を握り、葉月の無垢な夢が踏みにじられた現実に打ちのめされる。
だが、カメラは冷酷に、葉月の寝顔と裸体をズームアップし、湯の波紋と彼女の柔らかな曲線を映し出す。
群馬の控室では、万由がスマホで栃木班の配信を食い入るように見つめる。
「葉月さん…ヤラセだったなんて…!」
彼女の目は怒りで燃え、次郎の軽薄な態度とオレナルドの退場をメモする。
「涼香さんの失踪…この『演出』、田中の組織の闇と絶対繋がってる! 許さない!」
彼女はスマホを握りしめ、内心で誓う。
「私が真相を暴く!」
東京のモニター室では、田中が映像を見て汚らしい声で笑う。
「ケケケ! 温泉の回、なかなか良かったな! 葉月の涙と外国人への恋、海外からの視聴者数がインバウンドしたぜ!」
だが、彼の顔は一瞬曇る。
「ただ、外人の俳優、高かったな…涼香の時ほどの儲けが出ねえ。どうするかな…。」
彼の目はギラつき、新たな企みを閃く。
「とりあえず、もっと過激に行くか!」
田中はスマホを取り出し、知り合いのAV男優に電話をかける。
「おい、来シーズンの企画だ。もっとド派手に、もっとエグくやろうぜ!」
彼の笑い声が、モニター室に響き渡る。
湯けむりの中、葉月の幸せな夢は、ヤラセの冷たい現実で砕け散った。
莉緒と千尋の涙、万由の正義、田中の新たな企みが、次のシーズンへの火種を残す。
温泉リポートは、裏切りと愛の残響で幕を閉じた。
————–
一方、監禁病棟治療室の蛍光灯が、やけに白々しく涼香の顔を照らしていた。
血の気を失ったその横顔に、監護士は慌てふためきながら酸素マスクをあて、止血のためのタオルを胸に押し当てる。
「死ぬなーーー涼香!お前が死んだら、俺は……俺は……」
声が震えていた。涙でにじむ視界の中、彼は必死に彼女の脈を探る。
細い。けれど、かすかに脈打っていた。
「お前が死んだら、俺は……」
彼の喉がごくりと鳴る。
「……クビになっちまうじゃねーか!」
治療室に、悲痛とも滑稽ともつかぬ声が響いた。
「死ぬなーーー!涼香ーーーー!」
彼の手は震えながらも懸命に動き、止血処置を施し続けていた。
昏睡状態の涼香は、その声を遠くで聞いているかのように、まぶたをぴくりと動かした。
生きたい。
まだ終われない。
そのかすかな意志が、かろうじて彼女を現実へとつなぎとめていた。


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