涼香は田中平蔵の「支援」を受け、念願のテレビデビューを果たした。
番組は地方の温泉旅館を紹介する『温泉めぐり紀行』。
これまでライブ配信者として活動してきた彼女にとって、テレビの舞台は夢の第一歩だ。
持ち前の明るい笑顔と飾らないトークは視聴者を惹きつけるが、バスタオル一枚でカメラの前に立つことに強い緊張と不安が押し寄せていた。
「もし失敗したら…また笑いものにされる…」
と、楽屋の鏡の前で震える手で髪を整え、深呼吸を繰り返す。
額には冷や汗が浮かび、心臓は早鐘のように鳴っていた。
それでも、「これが私の再スタート。テレビで輝くんだ!」
と自分を奮い立たせ、スタジオへと足を踏み出した。

田中の条件は、番組中に宿泊サイト「デンデン」の
ステルスマーケティングを織り交ぜること。「デンデンで予約したらクーポンで半額!」
「電電ポイントで豪華ディナーが無料!」
と、涼香はカメラの前で笑顔を振り絞りながら宣伝をこなした。

最初の数回は、緊張で声が震えながらも順調に進んだ。
視聴者からは
「涼香ちゃん、テレビデビューおめでとう!」
「温泉似合うね!」
と好意的な声がXに並び、涼香は少しずつ自信を取り戻しつつあった。

だが、回を重ねるごとに異変が忍び寄る。涼香に渡されるバスタオルが、
なぜか徐々に薄くなっていくのだ。

最初は「気のせい?」と不安を押し殺したが、
視聴者の反応が彼女の恐怖を煽った。
Xでは「涼香のタオル、めっちゃ透けてね?」
「あの黒い影、毛? サポーター?」
「いや、剛毛すぎだろw」
「黒サポーターだろ、さすがにあれが毛だったらパンツから飛び出るぞ」
「いやいや、処理しない派なんじゃね?」
とコメントが過熱。

「涼香タオル検証スレ」が立ち上がり、
タオルの厚さや透け具合を分析する投稿が溢れた。
視聴率は上昇し、番組スタッフも「この路線、悪くない」と満足げ。

運命の日、山奥の老舗温泉旅館でのロケ。
涼香は薄いバスタオルをぎゅっと握りしめ、露天風呂から上がってリポート。
「デンデンのポイントで、こんな絶景の温泉が実質タダ! 皆さんもぜひ!」
と、緊張で声が震えながらも笑顔で締めくくる。
カメラに向かって立ち上がり両手を振る瞬間、バスタオルがスルリと滑り落ちた。

「ぎゃああっ!」
涼香の悲鳴が山間に響き、彼女の胸が一瞬、鮮明にカメラに映し出される。
スタッフが慌てて中継を切り、画面は「放送事故発生」のテロップに。
スタジオのMCが「温泉ならではのハプニング!」と笑いで誤魔化すが、Xはすでに大荒れ。
「#涼香ポロリ」がトレンドに躍り上がり、特に昔からの熱心なファンは大興奮。
「ついに見れた! 涼香ちゃんのおっぱい!」
「ぷるぷるしてそう、吸い心地よさそう!」
「でかかった! めっちゃ綺麗!」
「あの形、エロすぎるだろ!」
「神レベル!」
と、歓喜のコメントが洪水のように溢れた。
一方で、
「涼香ちゃん可哀想」
「これは事故だろ」
と同情する声も混じるが、ファンの熱狂がネットを席巻した。
楽屋に戻った涼香は震えながらタオルを握りしめ、涙目でうつむく。
「なんで…またこんな目に…」
と呟く彼女に、田中が冷ややかな声で近づく。
「涼香くん、しっかりタオルを巻いてくれないと困るよ。視聴者もスポンサーもガッカリだ。デンデンとの契約はこれで打ち切りだ。」
涼香は涙目で訴える。
「でも…タオルが勝手に落ちたんです! 」
だが田中は薄笑いを浮かべ、
「君の不注意だよ。まぁ、仕方ない。次の仕事を探してやる。今回の損失は君に埋め合わせてもらうからな」
と言い放つ。
涼香は知らなかった。
契約はすでに予定回数で満了していたこと。
そして、バスタオルの異変は田中の策略だったことを。
視聴率を上げるため、タオルを回ごとに薄くし、最終回には水に濡れると滑り落ちる特注の生地を用意。
涼香の羞恥は、田中の「演出」の一部だったのだ。損失どころか、田中はボロ儲けしていたのだ。
番組の終了後、ディレクターが田中に詰め寄った。
「田中さん、このポロリ事故、ポリコレ的にまずいですよ! 視聴者からクレームも来てる!」
すると田中は脂ぎった顔に不気味な笑みを浮かべ応えた。
「ディレクター、心配しすぎだよ。海の向こうじゃ大統領が変わって、行き過ぎたポリコレは過去の遺物さ。これくらい、普通だろ? 視聴率もバッチリだったしな。ケケケケ!」
彼の笑い声が会議室に響き、ディレクターは顔をしかめて押し黙った。
その夜、涼香は自宅の暗い部屋で膝を抱え、スマホに殺到するコメントを眺めた。
熱狂するファンの
「涼香ちゃん、最高のポロリ!」
「あの美乳、忘れられねえ!」
という声に、彼女の心は複雑に揺れる。
かつての配信で応援してくれたファンが、こんな形で喜ぶ姿に、感謝と同時に虚しさが込み上げる。
さらに、「涼香、ポロリ芸人w」「次は全裸で!」と嘲笑う声に、心はズタズタに切り裂かれた。
涙を拭きながら、涼香は考える。
「田中さんには…もう頼れない。でも、あれだけ案件を引っ張ってくる人との繋がりを切るのは…怖い。」
彼の冷酷な笑顔と、仕事のチャンスをくれる力が、頭の中でせめぎ合う。
だが、スマホに届くDMに目をやると、昔からのファンの声が。
「涼香ちゃん、テレビより配信の君が好きだよ」
「次も絶対見るから、戻ってきて!」
と、変わらぬ応援がそこにあった。涼香の胸に、かすかな温もりが灯る。
「私の配信…待っててくれる人がいる…」
ベッドの上でスマホを握りしめ、涼香は葛藤に揺れる。
田中の力を借りてテレビの夢を追うべきか、それとも自分の配信でファンと新たな道を切り開くべきか。路地裏の屈辱も、今回の事故も、すべてを乗り越える答えはまだ見えない。
涼香は静かに呟く。
「私は…どうしたいんだろう…」
彼女の物語は、ここで新たな岐路に立っていた。
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