【涼香】68.涼香、突然BANされるの巻!

小説

栃木温泉の昼間に、葉月とオレナルドの初夜が始まろうとしている一方で…

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今日も涼香はサンドバッグに打ち込んでいた。

ドン、ドン、ドン、と拳が響くたび、心の奥の澱が少しずつ削れていくようだった。

額から汗が流れ、首筋を伝う。

監禁病棟の簡素なジムには、涼香の荒い息遣いしかなかった。

──そのとき。

金属の扉が軋んで開き、冷たい空気が流れ込んだ。

涼香は拳を止め、振り返る。

そこに立つのは、漆黒のスーツに身を包んだ男。

無言で取り出したのは、黒光りする拳銃だった。

「……誰?」

涼香が警戒して問いかける。

男の目がぎらりと光った。

「くらえ、涼香」

「……は? 何? いきなり」

「お前のような、リアルな女は許さん!」

男の声は金属のように冷たい。

涼香は眉をひそめる。

「リアル? 何それ……みんなリアルじゃん」

「問答無用!」

男が叫び、銃口がこちらに向けられる。

「アニメの女以外は排除する!」

引き金が引かれた。

乾いた爆音。

胸に衝撃が走り、涼香の体は大きく後ろに弾き飛ばされた。

床に叩きつけられた瞬間、視界が赤く染まる。

息が詰まり、喉の奥に鉄の味が広がった。

──撃たれた。

心臓が凍りつき、血が胸元を濡らしていく。

だが、不思議と、致命的な痛みではなかった。

銃弾は、わずかに急所を外していた。

「……まだ……動ける……」

かすかな声が漏れる。

涼香は、自分の拳を見つめた。

ここで倒れたら、全てが終わる。

操られ、利用され、BANされ──最後は撃ち捨てられるなんて、絶対に嫌だ。

「私は……まだ……終わらない……!」

震える手を、床に突いた。

その時、ジムの扉が勢いよく開いた。

監護士が駆け込んでくる。

「涼香ーーー!」

彼の目が、血に濡れた涼香を見て見開かれる。

「何があった!? 俺がトイレに行っていた間に……」

駆け寄り、涼香の肩を抱き起こす。

彼の声は必死に震えていた。

「死ぬな……死ぬなよ、涼香ーーー!」

涼香はうっすらと笑みを浮かべる。

「……死なないよ。だって、私は……まだやることが、あるんだから……」

血に濡れた唇から漏れたその言葉に、監護士の表情が一瞬だけ和らいだ。

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