東京都心の雑居ビル、地下のライブハウス「ノイズ・ガーデン」からほど近い、マッサージチェーン店「エキゾチカ」の店舗A。
薄暗い照明とアロマの香りが漂う部屋で、シークレット・パレットの「るい」は、スカイブルーのビキニ姿でカメラの前に映る。
彼女の肌は、ステージで鍛えたしなやかさを持ち、完璧なターンを支える引き締まったラインが光る。
だが、ビキニの薄い布地が彼女の胸と腰をわずかに覆うだけなのが、
カメラの冷たいレンズに晒され、るいの心臓をバクバクと鳴らす。
カメラに向け、るいはアイドルらしい笑顔を振り絞る。

「今日は、エキゾチカ店舗Aで、マッサージの体験リポートをします! 3人のマッサージのプロが、それぞれの部位を丁寧にマッサージしてくれるそうで…とっても楽しみです!」
彼女の声は明るいが、内心はドキドキが止まらない。
「水着でも…恥ずかしいのに…これからマッサージ…!」
ステージでファンを熱狂させた自信は、カメラの視線と配信の衆人環視に揺らぐ。
「グループの夢のため…もも、れい、社長のため…頑張る!」
彼女は内心で決意を固め、深呼吸する。
マッサージ師3人が現れる。白衣の男たちで、それぞれが各部位を担当すると告げる。
るいはベッドに横になり、最初のマッサージ師が首に手を当てる。

熟練の手技が、るいの緊張をほぐす。
「ん…気持ちいい…。」
彼女の声が漏れ、カメラがその表情をアップで捉える。
だが、内心では
「こんなに近くで…男の人に触られるなんて…!」
と羞恥が渦巻く。
コメント欄がざわつく。
「るい、めっちゃ可愛い!」
「ビキニ姿、最高!」
海外からも
「She’s stunning!」
「This is gonna be wild!」
と反応が増加。
次に、マッサージ師がお腹に手を這わせる。
るいの引き締まった腹部に感触が広がり、くすぐったさが彼女を襲う。

「あっ…くすぐったい…!」
彼女は思わず身をよじるが、カメラがその動きを逃さない。
「こんなところ…触られるなんて…アイドルのイメージ、大丈夫かな…?」
彼女の心は、ファンの笑顔と事務所の借金を思い出し、葛藤で揺れる。

マッサージ師の指が、ビキニの縁近くを滑り、るいの心拍数が急上昇する。
「恥ずかしい…でも、シークレット・パレットを続けるため…!」
次マッサージ師が近づき、冷静な声で言う。

「背中のプロマッサージに移るよ。うつ伏せになって。」
「ブラジャー外すね。」
るいの目が一瞬見開く。
「え? 外す!?」

心の準備が中途半端なまま、マッサージ師の手がビキニのブラ紐に伸びる。
スルリとブラが解け、スカイブルーの布がベッドに落ちる。
「みんな…見てる…!」 カメラが容赦なく彼女の背中をアップで捉え、コメント欄がさらに過熱。
「キター!」
「綺麗!」
「アイドルなのに大胆!」
るいは顔を赤らめ、逃げるように枕に顔を伏せる。

店舗BとCでは、ももとれいが打ち合わせ中で、るいの様子を知る由もない。
ももは「私たちの番、どんなマッサージかな…?」と呟き、
れいは「ファンのため、頑張るよ!」と拳を握る。
だが、店舗Aの配信は、るいの試練を世界中に晒していた。
エキゾチカ店舗Aの配信を、秋山は雑居ビルのテレクラVIPルームでモニター越しに監視する。
南半球の規制緩いプラットフォーム「ファック」で、るいのスカイブルービキニとブラ外しの瞬間が世界中に流れ、コメント欄が「so hot!」「More!」と期待感で過熱。
秋山はモニターを眺めながら、「これが俺の企画だ。」と呟く。

雑居ビルの階段の下で、次郎は額の汗を拭った。
「やっべぇ……殺されるかと思った……テンション下がってきた…」
背後ではまだ、秋山の怒号がこだましている気がした。
“帰れ馬鹿野郎!”
耳の奥にこびりついた声が離れない。

路地に出ると、ひとりの女性が待っていた。
撮影ADとして田中グループに雇われているマユ――
(だがその正体は、警察の潜入捜査官・万由だ。)
「どうなりましたか?」
淡々とした口調に、次郎はぐったりとした声で答える。
「どうもこうもねぇ……秋山さんが暴走してんだよ。
俺の企画、全部ボツ! 腹に二発、キックだぞ! 普通に暴力だよ!」
マユは小さく頷き、冷静に情報を整理するように質問を重ねた。
「田中さんは今、どうされてるんですか?」

次郎は舌打ちして答える。
「田中さん? 今、“万博大黒字で大成功”とかいうステマ番組で忙しい。
あの人、アイドルマッサージ企画なんか見てねえよ。秋山さんに丸投げだ。
俺なんか干されたも同然だ……。はぁ、どうしよ……マジで立場ねぇ……。」
頭を抱える次郎に、マユはすかさず提案した。
「――涼香さんを、また出しましょう!」
「はぁ?」
唐突な提案に、次郎は顔を上げる。
「だって、あの人、話題性ありますよね? 失踪した配信者。
“復活”ってだけでインパクトあります」

「いや、あいつ……彩乃との対決に負けて、“死にたい”とか言い出したんだよ。
めんどくさくなった田中さんが、入院病棟にぶち込んだって聞いた。」
マユの瞳が鋭く光る。
「その病院、どこにあるんです?」
「えっ、行く気? あんなとこ陰湿だぞ。医者もヤバい噂あるし。」
「でも、放っておけません。」
マユの声には、正義感がにじんでいた。
次郎はため息をつき、煙草を取り出して火をつけた。
「……まぁ、俺も暇っちゃ暇だしな。行くか。田中さんに見直されるネタ探しにもなるかもしれないし。」
マユは質問を続ける。
「ところで、秋山さんはどんな企画を?」
次郎は、口の端を震わせながら答えた。
「店舗Aにはプロのマッサージ師を3人投入して理性ぶっ壊し、
店舗Bは“ならず者集団ファッカーズ”だとよ。
店舗Cは移民の軍団がマッサージ? とか言ってんだ。
もう、正気じゃねぇ……!」
「……なんですって?」

マユの声が低くなる。
「素人にマッサージさせる? しかも、ならずもの集団や移民軍団? 危険すぎます。」
次郎はおどけて肩をすくめた。
「いや、俺もそう思ったけど、あの人、聞かねぇんだよ。もう止まらねぇ。」
マユは真剣な表情に変わり、決意をにじませる。
「それ、放っておいたら事故になりますよ。最悪、事件です。」
「事件て……お前な、あんな業界で事件とか日常茶飯事――」
「いいえ、これは違います。」
マユは一歩踏み出した。
「私、ADなので行きます!現場を見ないと。」

次郎が目を丸くする。
「お、おい、マジで? “ファッカーズ”だぞ? あいつら、秋山さんの軍団だぞ!絶対やべーよ危険だよ…」
マユは振り返りもせず、ヘルメットをかぶった。
「危険だから行くんです。」
エンジンが唸り、バイクが風を切り裂く。
次郎の顔を一瞬だけ照らし出し、そして消えた。
「……やれやれ、正義感の塊かよ。死ぬなよ、姉ちゃん……。」
次郎はため息をつき、灰皿代わりの缶に煙草を押しつけた。
街には、遠くからバイクのエンジン音だけが残響のように響いていた。


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