83.バレ

小説

移民の一人が、大きな刃を彼女の太ももの根元に近づけたまま、笑っている。

れいの目から、さらに涙が溢れた。

声にならない「やめて」が、喉の奥で潰れる。

彼女は、ただ震えていた。

その瞬間——

「やめろー!」

ドアが勢いよく開き、万由が飛び込んできた。

ショートカットの髪が乱れ、息を切らしている。

彼女の目は、ベッドの上で縮こまるれいと、それを囲む男たちを同時に捉えていた。

移民たちが振り返る。

一人が低い声で何かを言い、腰から抜いていた大きな刃物をこちらに向け直した。

幅広の刃が照明に光る。別の男も、同じような刃を構えた。

れいの喉から、小さく漏れた悲鳴が上がった。

万由は一歩、踏み出しかけて——止まった。

屈強な男たちが五、六人。大きな刃物を持っている。

…勝てない。

彼女は一瞬、唇を噛んだ。

心臓が激しく鳴っているのが、自分でもわかった。

それでも、目を逸らさなかった。

内ポケットから警察手帳を取り出し、高々と掲げた。

同時に、腰のホルスターからピストルを抜き、天井に向けて威嚇するように構える。

「警察だ! 全員、手を上げろ!」

外国語のざわめきが一瞬で止まった。

男たちの目が、手帳と銃を交互に見る。

一人が小さく何かを呟き、大きな刃物をゆっくりと下ろした。

別の男が肩をすくめ、ドアの方へ歩き出す。

逮捕されるのを恐れたのか、それともただ面倒になったのか——

移民軍団は、刃物をしまいながら部屋を後にした。

カメラは、その一部始終を捉え続けていた。

【コメント欄】

「え、警官!?」

「マジで警察きた」

「あの人、警官だったのか」

「これ、違法配信じゃん……」

「正義の警官がエロ配信に乱入www」

「刃物持ってたのやめさせてくれた……?」

視聴者がざわついているのが、モニター越しに聞こえるようだった。

万由は手帳をしまい、ピストルをホルスターに戻す。

れいの方へ駆け寄り、震える彼女に自分のジャケットをかけた。

「もう大丈夫。救急車呼ぶから」

れいは泣きながら、小さく頷いた。大きな刃物が近づいてきた恐怖が、まだ身体の奥に残っている。

彼女はジャケットを強く握りしめ、万由の腕にしがみついた。

万由はスマホで救急車を呼びながら、れいの肩を支えた。カメラはまだ回っていたが、彼女はそれを気に留めなかった。ただ、目の前のれいを病院へ送り届けることだけを考えていた。

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