移民の一人が、大きな刃を彼女の太ももの根元に近づけたまま、笑っている。
れいの目から、さらに涙が溢れた。
声にならない「やめて」が、喉の奥で潰れる。
彼女は、ただ震えていた。
その瞬間——
「やめろー!」
ドアが勢いよく開き、万由が飛び込んできた。
ショートカットの髪が乱れ、息を切らしている。
彼女の目は、ベッドの上で縮こまるれいと、それを囲む男たちを同時に捉えていた。
移民たちが振り返る。
一人が低い声で何かを言い、腰から抜いていた大きな刃物をこちらに向け直した。
幅広の刃が照明に光る。別の男も、同じような刃を構えた。
れいの喉から、小さく漏れた悲鳴が上がった。
万由は一歩、踏み出しかけて——止まった。
屈強な男たちが五、六人。大きな刃物を持っている。
…勝てない。
彼女は一瞬、唇を噛んだ。
心臓が激しく鳴っているのが、自分でもわかった。
それでも、目を逸らさなかった。
内ポケットから警察手帳を取り出し、高々と掲げた。
同時に、腰のホルスターからピストルを抜き、天井に向けて威嚇するように構える。
「警察だ! 全員、手を上げろ!」
外国語のざわめきが一瞬で止まった。
男たちの目が、手帳と銃を交互に見る。
一人が小さく何かを呟き、大きな刃物をゆっくりと下ろした。
別の男が肩をすくめ、ドアの方へ歩き出す。
逮捕されるのを恐れたのか、それともただ面倒になったのか——
移民軍団は、刃物をしまいながら部屋を後にした。
カメラは、その一部始終を捉え続けていた。
【コメント欄】
「え、警官!?」
「マジで警察きた」
「あの人、警官だったのか」
「これ、違法配信じゃん……」
「正義の警官がエロ配信に乱入www」
「刃物持ってたのやめさせてくれた……?」
視聴者がざわついているのが、モニター越しに聞こえるようだった。
万由は手帳をしまい、ピストルをホルスターに戻す。
れいの方へ駆け寄り、震える彼女に自分のジャケットをかけた。
「もう大丈夫。救急車呼ぶから」
れいは泣きながら、小さく頷いた。大きな刃物が近づいてきた恐怖が、まだ身体の奥に残っている。
彼女はジャケットを強く握りしめ、万由の腕にしがみついた。
万由はスマホで救急車を呼びながら、れいの肩を支えた。カメラはまだ回っていたが、彼女はそれを気に留めなかった。ただ、目の前のれいを病院へ送り届けることだけを考えていた。


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