万由のバイクは、夜の道を疾走する。閉鎖病棟の外観が近づく。
建物は高く、コンクリートの壁を淡く照らしている。
万由はバイクを建物の陰に停め、ヘルメットを脱いだ。
涙はまだ完全には乾いていなかったが、目は鋭かった。
通気口の位置を確認する。
外壁に沿って設置された金属のダクトが、夜の中でわずかに光を反射している。
万由はダクトのカバーを外し、中に滑り込んだ。
狭い。埃の匂いがする。
膝と肘を使い、慎重に進んだ。
途中で分岐点があり、一つを選ぶ。
足音が聞こえないことを確認しながら、ゆっくりと移動する。
やがて、トレーニングルームの通気口の下に出た。
夜中の照明が、薄く部屋を照らしている。
サンドバッグが吊られ、その前で涼香が一人、拳を振っていた。
息が荒い。
汗で濡れたTシャツが肌に張りつき、鍛えられた背中の筋肉が動くたびに光を反射する。
彼女は誰もいない部屋で、ただ黙々とサンドバッグを叩いていた。
万由は通気口のカバーを内側から外し、声を抑えて呼びかけた。
「涼香さん」
涼香の拳が止まる。
振り返った彼女の顔は、汗で光っていた。目が大きく見開かれる。
「……!?……」
「助けに来た。通気口から出られる。急いで」
涼香は一瞬、戸惑ったように周囲を見回した。
だが、すぐに頷き、通気口の方へ近づく。
二人は狭いダクトの中を、互いに身体を寄せ合いながら進んだ。
途中、分岐点で下の廊下に出るための開口部があった。
そこから降りた瞬間、監護師と鉢合わせした。
男は白いマスクをつけ、無言で二人を見つめた。
万由が身構えた。涼香も、息を呑む。
監護師は、何も言わなかった。
ただ、顎で軽く「行け」と促すように動かした。マスクの下の目が、笑っているように涼香には見えた。
二人は彼の横をすり抜け、非常口へ向かった。
ドアを開け、外の夜気に触れた瞬間、涼香は深く息を吐いた。
病棟の外。アスファルトの上に、二人は立っていた。
しばらく沈黙が続いたあと、涼香が小さく呟いた。
「……私、だまされてたんだ。搾取されてた」
万由は彼女の横顔を見た。静かに答える。
「それでも、あなたは今、自由を取り戻して、自分でここに立ってる」
涼香は空を見上げた。
フォロワーの皆さん、まだ私の事、覚えてくれているかな…。
彼女はそれを想い、ゆっくりと口を開いた。
「これからは、私が騙されていたこと。利権に対して……配信やSNSで、皆さんに真実を伝えたい」
万由は何も言わず、ただ頷いた。
警察を辞めた自分と、搾取から抜け出した涼香。
二人は、病棟の外の夜風の中で、静かに立っていた
SEASON2 完結

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