85.シーズン2最終回

小説

万由のバイクは、夜の道を疾走する。閉鎖病棟の外観が近づく。

建物は高く、コンクリートの壁を淡く照らしている。

万由はバイクを建物の陰に停め、ヘルメットを脱いだ。

涙はまだ完全には乾いていなかったが、目は鋭かった。

通気口の位置を確認する。

外壁に沿って設置された金属のダクトが、夜の中でわずかに光を反射している。

万由はダクトのカバーを外し、中に滑り込んだ。

狭い。埃の匂いがする。

膝と肘を使い、慎重に進んだ。

途中で分岐点があり、一つを選ぶ。

足音が聞こえないことを確認しながら、ゆっくりと移動する。

やがて、トレーニングルームの通気口の下に出た。

夜中の照明が、薄く部屋を照らしている。

サンドバッグが吊られ、その前で涼香が一人、拳を振っていた。

息が荒い。

汗で濡れたTシャツが肌に張りつき、鍛えられた背中の筋肉が動くたびに光を反射する。

彼女は誰もいない部屋で、ただ黙々とサンドバッグを叩いていた。

万由は通気口のカバーを内側から外し、声を抑えて呼びかけた。

「涼香さん」

涼香の拳が止まる。

振り返った彼女の顔は、汗で光っていた。目が大きく見開かれる。

「……!?……」

「助けに来た。通気口から出られる。急いで」

涼香は一瞬、戸惑ったように周囲を見回した。

だが、すぐに頷き、通気口の方へ近づく。

二人は狭いダクトの中を、互いに身体を寄せ合いながら進んだ。

途中、分岐点で下の廊下に出るための開口部があった。

そこから降りた瞬間、監護師と鉢合わせした。

男は白いマスクをつけ、無言で二人を見つめた。

万由が身構えた。涼香も、息を呑む。

監護師は、何も言わなかった。

ただ、顎で軽く「行け」と促すように動かした。マスクの下の目が、笑っているように涼香には見えた。

二人は彼の横をすり抜け、非常口へ向かった。

ドアを開け、外の夜気に触れた瞬間、涼香は深く息を吐いた。

病棟の外。アスファルトの上に、二人は立っていた。

しばらく沈黙が続いたあと、涼香が小さく呟いた。

「……私、だまされてたんだ。搾取されてた」

万由は彼女の横顔を見た。静かに答える。

「それでも、あなたは今、自由を取り戻して、自分でここに立ってる」

涼香は空を見上げた。

フォロワーの皆さん、まだ私の事、覚えてくれているかな…。

彼女はそれを想い、ゆっくりと口を開いた。

「これからは、私が騙されていたこと。利権に対して……配信やSNSで、皆さんに真実を伝えたい」

万由は何も言わず、ただ頷いた。

警察を辞めた自分と、搾取から抜け出した涼香。

二人は、病棟の外の夜風の中で、静かに立っていた

SEASON2 完結

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